最近のケン・ローチのすごい所は、すごいと思わせないところがすごいと思うんです。自分で書いてて「それは要約すると、すごくないんじゃねえの?」という気もしてきたのですが、すごいんです。
当然、上っ面のきれいごとは描きません。ですが、えぐりとって「どや!どや!」ということもない。
淡々と静かに出来事を並べていく。
ベネチア映画祭では最優秀脚本賞をとったそうですが、ポール・ラヴァティによる脚本は実に効果的に出来事を並べていく。
この「写実主義」ともいえる手法で、ケン・ローチはきちんとケン・ローチの視点で出来事を切り取っていきます。
この物語の中で、権力側の人間が一切登場しない。市井の人々の視点を貫き通す。
誰の味方もしないし、誰も一方的な悪人にしない。
ケン・ローチは、誰を憐れむでなく、それでいて全ての人を憐れんでいるように思えるのです。
It's A Free World...
この自由な世界で、人が人として生きていくことがどれだけ不自由か。
それをケン・ローチは冷静に静かに見つめている、そんな映画。
2008年8月16日公開(2007年 英=伊=独=スペイン)
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