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母べえ




監督:山田洋次/ユナイテッド・シネマとしまえん/★4(72点)本家公式サイト

大人の戦争映画。この時代の空気を正しく描いた最後の映画になるかもしれない。
今の日本映画は昭和33年や34年の時代の空気すらまともに描けない。年表に書かれた程度の表面上の流行を再現しただけで評判を得る時代だ。
“今”の時代の空気を描ける映画監督は大勢いるが、岡本喜八、黒木和雄亡き今、戦時下の空気を正しく描いた映画は今後登場しないだろう。おそらく、この映画が最後だ。
隣組の描写なんて一体誰ができる?ま、山田洋次がこの時代を撮り続ければ別ですが。

「反戦物」はテレビ・映画を問わず今後も作られ続けるだろう。
当時の流行歌を頻繁に流すようなドラマは二流だ。まして、「こんな戦争誰が始めたんだー!」的なことを声高に叫ぶドラマは三流。

この映画を見れば分かる。

炭屋のオッサンや贅沢品撲滅運動のオバサンが大衆側の時代。軍人だけを悪人にして、庶民のはずの主人公をみんな「反戦思想」で一致団結させてしまうような話は愚の骨頂。
この映画の一家はかなりインテリです。このインテリ家族先生の嫁さんですら、「不器用でカナヅチの貴方まで戦争に」と言うのが精一杯の“反戦言動”。

この話で秀逸だと思うのは、中村梅之助演じる父親も鈴木瑞穂演じる恩師も、主人公側とは意を異にする立場なのですが、その理屈は通っているんですね。法治国家なんだから、どんな悪法でも従わにゃならんのです。そして何より、父自身が「己の信念を貫いた」ヒーローではなく、転向の旨の文章を書くんですよ。藤沢周平主人公同様、ヒーロー然としたヒーローではないんですね。
誰一人、強い意志を持って体制と戦ってるわけではない。ただ、どうにもならない“時代”と戦っているんです。
だから、家の間取りや天井の低さ、室内の暗さ等々も含め、“時代の空気”を正しく描く必要があったんでしょう。

山田洋次だから当たり前っちゃ当たり前なんですが、巧いんですよ。

山ちゃんが去る時、母のアップを撮る。子供達のアップを撮る。子供達にとって、今まで見たこと無いような母の表情。何か見てはいけないものを見てしまったような感覚。それが全てこの短いショットに込められる。アップってこうやって使うもんなんだよなあ。

自身が満州引揚者の山田洋次は、かつて、「自分の体験を残さねばならぬ」と言っていたことがある。それが映画監督としての使命だと。
おそらく、本作はその一環なのだろう。自分の中で機が熟したのかもしれない。

余談

役者に関して言うと、特に何の不満も無いのだが、鶴瓶を見ると「渥美清だったろうなあ」と思ってしまう。
でもよく考えてみると、寅さん以外は、結構いろんな主演を迎えてるんだよね(寅さんのマドンナもそうだけど)。

2008年1月26日公開(2007年 松竹)

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