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わらしべ夫婦双六旅


わらしべ

出演:藤山直美、中村勘三郎、上島竜兵、余貴美子、矢口真里/作:中島淳彦、演出:ラサール石井/at:新橋演舞場
藤山直美を見たいヨメとヤグチを見たい俺の利害が一致したので観劇
小劇場系は別として、こうした大衆演劇を観劇することは滅多にない。
そもそも映画の10倍も値段がするくせに、映画の10分の1くらいしか面白くない。要するに映画の100倍損な代物だと思っているからだ。
しかし今回は、表題に書いた通り“実利”があったので、滅多にないことをしてみた。
いかにヤグチが可愛かったかはひとりごつに書くとして、「なるほど、大衆演劇とはこうしたものなんだな」と感心したことをここに書くことにする。

オバチャン相手に笑わせて泣かせるウェルメイドな作品は、オバチャン達が「面白かったね」「笑ったね」「笑うのが健康に一番」なんてことを口々に言いながら満足げに帰っていくのに充分な出来だったと思う。
実際、面白かったしね。

公演は、前半約1時間、約30分の休憩を挟んで、後半約1時間。
前半は笑い中心で、盛り上がって幕間に入り、後半は泣かせをクライマックスに。
これは大衆演劇のパターンなのだろう。
こうした“パターン”やストーリーの“パターン”をもって“ウェルメイド”と呼んでいるのだが、ハリウッド映画の娯楽作品も同様で、実はアート系と呼ばれる映画よりも難しい部分がある。

主目的は、“作り手の主張”ではなく“観客の満足”という点だ。

アート系は“傲慢”な作家の主張を理解しようと観客が背伸びするものだが、娯楽系は「面白い」「つまらない」という単細胞な感覚でしか物を感じない“傲慢”な観客に作り手が膝を折っている感じを受ける。

ところが、この“膝の折り加減”が難しい。そこに創意工夫や苦労がある点になかなか気づかない。
今回の芝居で特に感じたのが、実に旺盛なサービス精神。

例えば、(これは大衆演劇全般の特徴なのだろうが)“舞台を大きく使っている”ことに改めて感心した。
何気なく台詞をしゃべりながら舞台の端から端へ移動する。要するに、どの観客からも見えるよう役者が動くのだ。芝居のリアリティーより観客へのサービス重視。
(その一方で、あまり奥行きは使わない。オフをあまり使わないのと併せて、小劇場系との大きな違いのような気がする)

また、舞台で「難しいだろうな」といつも思うのが、舞台上への人物の出し入れ。
映画のようにカットの切り替えで処理することができない。
新橋演舞場は、上手、下手の他に花道があり、三方に出入り口がある。この三方を使っての入りや捌けだけでなく、板付き(勘三郎の登場は子供時代の回想から陰板で登場した)、セリと様々なパターンを組み合わせる。
正直、私は「突然歌いだすミュージカル」よりも不自然に感じるのが、舞台芝居の“捌け”。カットで処理する映画に慣れているせいだろうが、舞台上から去るのにいちいち理由付けしなければならない(それは舞台の性質上仕方がないのだが)。
しかし今回は「なるほど」と感心する場面がいくつかあった。例えば、ここ一番の竜ちゃんの泣かせの場面。歩いて捌けたら間延びする所を、映画のフェードアウトのようにセリで下げる。ああ、セリってこうやって使うんだな。

これまたウェルメイドな話のパターンだが、メインの筋にサブキャラの筋が巧い具合に絡んでくる。これが、映画よりもジャズに近い感じがした。
ジャズで言うところのビ・バップのように、今回なら5人の主要キャラ各々に見せ場があり(最大の泣かせの担い手は竜ちゃんだったりする)、時に即興のセッションを見せたりする。
ちっちゃいヤグチのキャラ、即興に弱い竜ちゃんのキャラ、そうした個性を活かして笑いを取る。

なるほど、これが大衆演劇なのだな、と思うことしきり。

そして何といっても、藤山直美の嫌味の無いサービス精神。
彼女がいかにすごい女優かということは、BS等で何度かその舞台中継を観ているので充分承知しているつもりだったが、実際に見て驚いた。本当にすごい。
なにせ、歩いているだけで可笑しい。ドリフコントみたいな雷様の格好から、果ては、ヤグチと一緒に「ラブマシーン」を完璧な振り付けで踊る始末。会話の間といい、テンポといい、なるほど一流女優。

そして、観客が「藤山直美の喜劇」を見に来ていることを熟知しているのだろう、全体的にカラッとしている。
先に“泣かせ”と書いたが、もっとベタベタするのかと思いきや、「少し泣いて大きく笑」って観客が帰るような作りにしているように思える。
説教じみない適度な教訓を伝え、「いい話だった」感も与えつつ。
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