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天然コケッコー




監督:山下敦弘/新宿武蔵野館/★5(98点)
本家goo movie公式サイト

五感で感じる「予感」の物語
「いつまでも今のままであり続けたい」と願いつつ、「いつまでも今のままではいられない」ことを薄々“予感”している。思春期特有の“漠然とした不安感”は、こうした予感が原因なのかもしれない。
この映画は、こうした「予感」を意識する思春期の少女を描いた物語だ。

修学旅行で行った東京も、「山と同じ」ことに気付けば「いつか仲良くなれるかもしれない」と感じる。
いつか自分の学校が廃校になることも漠然と分かっている。
父親の浮気のことも薄々気付いている。
そして、いつか彼と別れる日が来るかもしれないことも。

しかし、若い彼女の前にはまだ劇的な変化は訪れない。
せいぜい、1年歳をとり、違和感のある制服と不似合いの坊主頭になったくらいだ。
だが、それもいずれ慣れてしまうのだろう。

“慣れる”ことは“忘れる”ことと大変近しい。分かりやすい例を挙げれば、都会に慣れることは田舎を忘れることに近いことと類似している。
しかし、右田そよは、おそらく忘れない性質(たち)なのだろう。
目で耳で指先で、五感で“今”を記憶しようとする
(その究極が、彼にはぎこちなかったキスが、教室に対して初めて愛情込めたキスができるシーンに集約される)。
きっと彼女は、慣れることがなかなかできない“不器用な”性格であるに違いない(実際、器用な性質ではない描写が多々出てくる)。

私はこの映画を観ながら、右田そよと一緒に「今この瞬間がこのまま続けばいい」と思っていた。例えば海のシーン。あのまったりしたゆるやかな時間なんかサイコーに映画的な瞬間だった。
だが悲しいかな、それでも四季は訪れてしまう。

今、日本で一番ど田舎を描くのが巧い山下敦弘は、都会とのギャップを笑うわけでもなければ、くだらない田舎讃歌をすることもない。
エピソードも画面も絶妙な切り取り方で、田舎特有の短い列車に余る長いホームを固定カメラで切り取る様は、たったワンショットで田舎の日常を的確に描写する。
消えていくことに気付くと今この瞬間が輝いて見える。そのことに彼女と一緒に気付いた時、何てことのない日常の登校シーンですら切なく思えてくる。
徹底して右田そよ視点で描かれるこの物語は、その輝く瞬間のために、日常をダラダラと、しかし的確に活写するのだ。

余談

主演の夏帆ちゃんは、宮沢りえを一躍お茶の間に浸透させた三井のリハウスのCMを経験し、さらには、宮崎あおい、堀北真希を輩出した「ケータイ刑事」シリーズの四代目を演じた名門(?)出の女優(所属事務所も松雪泰子や柴咲コウ、中谷美紀などを抱える力強い所なのだが)。彼女の気取らない自然体の表情は大変好感が持て、佐藤浩市と夏川結衣の娘であることに妙に納得してしまった。あのチラ見した後に床屋に入る夏川結衣の凄いこと凄いこと。

2007年7月28日公開(2007年 アスミック・エース)

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