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麦の穂をゆらす風




監督:ケン・ローチ/渋谷シネアミューズ/★4(70点)
本家goo movie公式サイト

戦争には英雄も美談も存在しない。
この手の映画の場合、気を付けなければいけないのは、史実の評価と映画の評価を混同してしまう点にある。凄い真実を叩きつけられると凄い映画を観たような錯覚に陥ることがある。
ただ、ケン・ローチは凄い映画を撮る気はなかったような気がする。

彼自身が「過去について真実を語れたならば、私たちは現実についても真実を語ることができる」と言っているように、凄い“映画”ではなく“真実”のみを語ろうとしたに違いない(実際、調査には大変な時間を要したそうだ)。
言ってしまえば、最近流行りの“真実に基づいた物語”ではなく“真実”だけを伝えようとしている。

ケン・ローチは元々ドキュメンタリータッチの人なので当然と言えば当然だが、以前にも増して劇的な演出を極力排除し、淡々と過不足なく状況を描写している気がする。
この映画が正直いま一つ面白くない理由は「過不足ない」描写であり、この映画がよく出来ていると思う理由もまた「過不足ない」描写なのだ。

「過不足ない描写」を「面白くない」と言う理由は、アイルランドの歴史は既知のことで目新しい情報がないという全く私個人の問題であり、事実をねじ曲げてでも「作り物の面白さ」が好きだというこれまた全く個人的な理由である。全くくだらん理由だ。

だがこの映画、真実を語るのにナレーションや説明文を一切用いない。「1920 Ireland」という文字しかない。しかし「アイルランドって言えば分かるだろ」的な不親切なことでもない。「イギリスの圧政」をきちんと画面として描写する。主人公達が置かれた立場が変遷していくのをストーリーの中で無理なく見せていく。彼らの葛藤も困惑も信念も「過不足なく」描かれていく。大変よくできた脚本、映画だと思う。

私がこの映画でグッときたケン・ローチらしさは、おばあさんのクダリだ。
家事で焼け出されても「この家で死にたい」という彼女の描写こそ、彼が描きたかった根底ではないだろうか。英雄談でも美談でもない現実の悲劇。

なぜ今この題材なのか?自明のことだが、ケン・ローチ自身の言葉を引用してこのレビューを締めくくろう。

「英国が今、力づくで違法に、その占領軍をどこに派遣しているか、皆さんに説明するまでもないでしょう。」

日本公開2006年11月18日(2006/英=アイルランド=独=伊=スペイン=仏)

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