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花よりもなほ


花よりもなほ

監督:是枝裕和/新宿ジョイシネマ2/★4(70点)本家goo movie公式サイト

是枝の「9・11」

本当に時代劇がやりたかったのかもしれないが、是枝が本当に言いたかったのは「復讐による憎しみの連鎖を断ち切る」ということであろう。それに最も適した舞台を選んだら時代劇だった、という方が適切な気がする。

ならそんな間接表現しないのが是枝ではないか、とも思えるが、実は是枝は今まで「事件そのもの」を描いてきたわけではない。ドキュメンタリー出身であることとその語り口から誤解されているようだが、事件の事前談であったり事後談であったりと、結果からその背景やその後を探る(想像する)のが好きなのである。
であれば、必ずしも直線的な事前談、事後談であるとは限らない。少し飛躍して架空の舞台を用意しても不自然ではなかろう。

「仇を見つけるのは10年かかるか20年かかるか。」
おそらく是枝は山中貞雄を手本としたのであろう。

『百萬両の壺』の現代性と『人情紙風船』の要素を掛け合わせた結果は、中途半端に終わったというよりも、真正面から時代劇に挑む「照れ」が感じられる。要するに、本当は時代劇じゃなくてもよかったのだ。山中貞雄がそうであったように。
しかしその一方で、「九郎判官義経」と並ぶ日本人の復讐美意識の中核「忠臣蔵」を持ち出すことで、「憎しみの連鎖を断ち切る」ことを抽象論から具体化させるという狙いもあるだろう。「この時代」を選んだ必然性は感じられる。

そう考えれば、極めて是枝らしい映画である。唯一違うのは、今までほとんど「一人称」で映画を作ってきた彼が、集団劇に挑んだ点である(多人数映画はあるにはあったが、『ワンダフルライフ』は一人称の集合体であり、『ディスタンス』は集団自体が一つだった)。
そしてそれは、思いの外、よくまとまっていたのだ。

何度か書いているが、この監督が好きなのは「明るい未来」ではなく「後ろ暗い過去」である。トラウマを抱えた人間を動かすのが好きなのである。
この映画も決して例外ではない。
だが、今までの映画のような不快感はない。
むしろさわやかだった。
いや、素直に面白かったよ。

2006/06/03公開(2006年 松竹)


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