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僕のニューヨークライフ

監督:ウディ・アレン/恵比寿ガーデンシネマ/★3(53点)本家AllcinemaOnline公式サイト

私には、コメディーに見せかけた「シリアス・アレン」の系統に思えてしまう。深読みすると結構難しい映画だ。(reviewはバリバリねたバレ)
原題は「anything else」。直訳すると「他の何か」。all things anything elseで「何はさておき」という慣用表現もあるようだが、私の調べなので当てにならん。何が言いたいかというと、どうひっくり返しても『僕のニューヨークライフ』なんて邦題は出てこないということだ。

映画好きならこの格言は覚えておいた方がいい。
「日活配給洋画の邦題は信用するな」(ペペロンチーノ作)。
『10ミニッツオールダー』2本のショーモナイ副題、私が「史上最悪の邦題」と言ってはばからない『チョコレート』等、前科は多々ある。
いや、必ずしも邦題が原題に沿ったものである必要はない。誤訳も時に名訳になったりするものだし、原題よりもその映画を的確に著した邦題だって多く存在する(昔は)。

だがそれが、映画の「内容」の誤読だと腹立たしい。
少なくともこの映画は、主人公である“僕”の“生活”は媒体にすぎず、本当に描かれているのは、それを通じた「他の何か」であることは映画を見れば明白ではないか。
ましてやこの邦題は、一見「口当たりの良さ」以外、全く意味が無いように思われる。
他に口当たりのいいタイトルはいくらでも浮かびそうだが、何故このタイトルなのだろう?
(ちなみに『僕のスイング』という前科もある)。

日活が作ったパンフレットにはこうとも書いてある。
「40年近いキャリアのアレンが初めて手がけた青春映画。」
アホか。初めても何も、年くったアレンがいつものアレンを他人に託したにすぎないし、それだって初めてじゃない。そもそもこれが青春映画か?若者が悩んでいれば全て青春映画か?お気楽だな、日活。

そうは言っても、かなり広義に捉えれば青春映画と言えないこともない。
通常、青春映画というものは「成長する物語」というのが相場だが、これは「一人の男が解放される物語」と読み取れる。その解放を「自ら勝ち取った」=「成長」と拡大解釈すれば、青春物語と言えなくもない。

配給会社のネーミングセンスから始まって、何をこんなにゴチャゴチャ言っているかというと、(読んでいる方には大変申し訳ないが)書きながら悩んでいるのである。
何故なら、私には「政治映画」に見えてしまうのだ。

劇中台詞「裸の運転手のバスに乗るな」(という格言)は、一見ただのギャグだが、一度ホロコーストの話が絡むと様相が変わってくる(ユダヤ人を自虐的に扱うことは多々あるが、こんなにナチ、ナチ、言ってるウディ・アレンは初めてじゃないだろうか?)。
おまけに「自分の身は自分で守れ。武装しろ」とまで言いだす始末。
そこで邦題で強調している“ニューヨーク”が頭をもたげてくる。

例えば駐車のクダリ。
あそこは「駐車場所を取られた→怒るが相手が強そうだった」で終わっていいギャグだ。
わざわざ復讐をすることは、今までではちょっと考えられない。
後の伏線とも解釈できるのだが、それなら(ウディだから)非力で失敗したというのでもいい。
つまり、この映画が本当に「コメディー」なら(失敗で)笑いで終えるべきシークエンスなのに、まんまと「愚かしい復讐」が成功するのである。こんなに暴力的なアレン作品は珍しい。

そしてもう一つ興味深いのは、前作『さよなら、さよならハリウッド』(日本公開順だと『メリンダとメリンダ』だが)はアメリカから、本作ではニューヨークから「去る」話で終結する点。

そんなこんなで、私には「政治映画」に見えてしまう。
すると、「裸の運転手のバスに乗るな」という格言は、実はこの映画のテーマにも思えてくるのだ。

ただここで厄介なのは、ウディ・アレン演じる男の主張と監督ウディ・アレンの主張がイコールでないことだ。少なくとも「武装せよ」なんてことをウディが本気で考えてるとは思えない。
正確には、意図的に「明確な主張」を避けているように見える。
この映画の登場人物は全員が全員、時に「正しく」時に「誤っている」のだ。
正に「人生そんなもんですよ」なのだ。
多くのハリウッド映画にありがちな「善か悪か」「マルかバツか」という、アメリカ社会を席巻する二極論を老獪にわざとはぐらかしているように思えるのだ。

さらに突き詰めていくと、この映画の登場人物は皆「諸事情」を抱えて悩んでいる。
しかも全員「自分のため」に悩んでいる。カウンセラーすら助言をくれない。
唯一ウディ・アレン演じる男だけ助言を与えるが、終いには「他人の助言は聞き流せ」という助言を与える。そして彼も嘘か誠か事情を抱えることになるという構成。
要するに、人は誰しも絶対的な真理を信じたり求めたりするが、本当は「他の何か」があるのだよ、と言ってるのだ。
だから、「彼女しかいない」と信じていた男が「他の何か」に気付く物語だとも言える。

映画の冒頭、こういった内容の台詞がある。
「ジョークは格言に満ちている。」
おそらくこの映画はそれを狙ったのだ。
コメディー(ジョーク)映画でありながら様々な示唆に富んでいる。
だがそれを全て読み取るのは非常に困難である。
観た人が、その人なりの格言(テーマ)を受け止めればいい。たぶんそういう映画なのだろう。

日本公開2006年1月21日(2003年 米=仏=英=オランダ)112分


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