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狼たちの午後

監督:シドニー・ルメット/BS/★4(67点)本家gooDB

これは“自分塾”を開いてこなかった男の物語だ。

と書いてしまったら、“自分塾”が何かを説明しなければならなくなった。
“自分塾”とは、MJことみうらじゅん氏が、その著書「正しい保健体育」の中で提唱しているもので、分かりやすく言うと、「ツマラナイ大人」にならないために自分を鍛える場なのである。

“自分塾”を開催しなかった人が成長の過程で受けているのは“義務教育”だけなのだ。私はこれをもう少し広義に“学校教育”と定義するのだが、それは要するに「世間的に正しいと言われること」を教えられる場なのだ。
そんな「世間的に正しいと言われること」しか学ばなかった結果は、新橋辺りで酔っぱらって会社のグチをこぼし「俺も若い頃は結構無茶したよ」なんてくだらない自慢話をする「ツマラナイ大人」なのだ。そんな「ツマラナイ大人」にならないために、少しでも「オモシロイ大人」になるために、義務教育(学校教育)だけではなく、“自分塾”で鍛えようというのである。

ちなみにMJの“自分塾”はエロ・スクラップ作りだそうだが、ここのコメンテーター達の多くは「映画」という“自分塾”を開催している。
その結果、ツマラナイ大人達(私はそれを大衆と呼ぶ)の感想文とは大いに異なり、必要以上に熱かったり、ムダに面白かったりするコメントが読めるのであろう。
「特撮キチガイ」「侠気(おとこぎ)バカ」などと呼ぶのは非難ではなく、「オモシロイ大人」に対する称賛なのだ。

前置きが長くなったが、やっと映画の話になる。

アル・パチーノ演じるソニーは、これまで「世間的に正しいと言われる」教育を受けて育ってきた人間だと推察できる。

ソニーは、恵まれない家庭環境で育ち、そこから這い上がるために(這い上がれると信じて)勉強したのだろう、物もよく知っている。ベトナム戦争にも行った。平凡な奥さんと結婚し、二児をもうけ平凡な家庭を築いた。“義務教育”的に正しい人生を歩んできた。

だがある時(何がきっかけかは分からないが)、彼は自分の人生が「ツマラナイ」ものだと気付いたに違いない。多くの場合、自分が「ツマラナイ大人」であることに気付かないまま大衆として一生を終えるものだが、彼は不幸にも気付いてしまったのだ。
麻疹(はしか)みたいに若いうちに恋を経験しなかった大人が突然恋愛をすると重症になるように、ソニーは突然“男”に走る。まあ、それが恋だったのか愛だったのか同情だったのかは知らないが、そんなこんなで、彼はブチ切れ、自分の「ツマラナイ人生」に対する抵抗、そして、そんなツマラナイ人生を押しつけた「義務教育」(=社会)に対する抵抗、それがこの物語なのだ。

この映画の構成が実に見事な所はまさにそこで、事件が展開するにつれソニーの人生(の断片)が明らかになり、その人生が社会情勢を浮き彫りにしているのである(冒頭で一見平和な街の様子を延々見せるのはちゃんと意味を持っている)。

おそらく、ソニーの人生は思い通りにならなかったのだろう。
事件の冒頭、コメディーみたいに(ていうかコメディーだ)様々な障害が発生するのは、それがソニーの人生と同じだからだ。
もしかすると、彼の人生で思い通りになったのは、車に載って空港へ向かう瞬間だけだったのかもしれない。

(1975年 米)125分


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