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東京事変 live tuor 2005 "dynamite!"

at:渋谷公会堂

シンプル構成に戻って、なお「変幻自在」。

私は矢口真里を愛しているが、もう一人惚れている女性がいる。その名は椎名林檎。
彼女の容姿も声も才能もイカレっぷりもけれん味も大好きだ。

「アルバム3枚出したらやめる」の公言通り、(ミニアルバム、カヴァーアルバム、DVDを除く)オリジナルアルバム3枚出して“東京事変”への転身。ソロ活動からバンド活動へ移行する希有な例である。このけれん味。

思えば、一昨年の武道館コンサート、アンコール後のファイナルの曲は、当時発売前の新曲「りんごのうた」。自らの名をタイトルに掲げた椎名林檎名義ラストシングルで幕を閉じた彼女は、東京事変オリジナルアルバムを、そしてこの東京事変名義初ライブツアーを、ロックアレンジ・東京事変版「りんごのうた」で幕を開ける。このけれん味。

武道館で「りんごのうた」を歌った際、一度楽屋へ戻り、観客には楽屋風景を映像で見せた。いかにもたった今の出来事のように見せかけた偽映像である。楽屋に戻った椎名林檎にドッペルゲンガーが現れ、そのドッペルゲンガーがステージに向かう。そのもう一人の椎名林檎には、彼女のトレードマークである“ホクロ”がない。そして実際に再度ステージに現れた椎名林檎には、本当にホクロがなくなっていた。この時点では、まだバンド活動への転身を発表していないのだが、新生椎名林檎を予感させる演出。そのけれん味。
ちなみに、実際に発売された「りんごのうた」では、“ホクロ”はプラスチックケースに描かれ、ジャケ写はホクロの無い椎名林檎である。この徹底したけれん味。

つまり、椎名林檎というソロアーティスト(自作自演屋)から東京事変というバンドへの転身を、自ら(と自らの名をタイトルにした曲)を媒体に「再生」という形で体現した格好になる。

そもそもアルバム3枚で引退の予定が、妊娠→結婚→出産(→離婚)と(多少順番を間違ってないではないが)体験し、「まだ表現すべきことが残っている」といったような事を言っていた気がする。
思えばオリジナルアルバムで、「無罪モラトリアム」ではモラトリアムという庇護の下大人ぶった小娘を、「勝訴ストリップ」では赤裸々な裸の女を、「加爾基、精液、栗ノ花(カルキ、ザーメン、クリノハナ)」では大胆にも女の一生を描いてきた。
2ndアルバム辺りで振り落とされるファン続出だったのだが、自身の成長と共に音楽も成長し、アルバム3枚で個人としての椎名林檎を大方描ききってしまった感もある。

彼女の書く詩(うた)は、作り事ではなく、己の精神を切り刻みながら自己表現の結末として作られている。違った見方をすれば、再前面に押し出される自己の“照れ隠し”で、難解な語彙を用いたり、コスプレしたり、けれん味たっぷりだったのだ。

新生・椎名林檎は、東京事変というバンドを得て“照れ隠し”のけれん味がぐっと薄まる。
ライブを見て感じたのは、演奏を楽しんでるように思える点だ。
バンドの皆が皆、けれん味たっぷりのプレイを見せるのだが、それは“照れ隠し”ではなく、自分が幼い頃(音楽を志した頃)に抱いたであろう「こういうプレイスタイルってカッコイイよな」ってのを体現しているように思える。ギターを背中に回して弾くといった派手な次元ではなく、ストラップの長さやストロークを下から始める所やドラムのシンバルの高さやスティックを振り下ろす高さとか、「どうよ!どうよ!」的なかっこよさが見ていて楽しい。

ギター、ベース、ドラム、キーボードだけのシンプル構成。
シングル曲はバンド色の強いサウンドだったが(おそらく意図的だろう)、アルバムは(ライブも)従来と変わらず硬軟緩急変幻自在。

この変幻自在を支えているのは、鍵盤担当ヒイズミ(PE'Z)の腕。
PE'Zの時はキーボードがほとんどで分かりにくいし、時折足で弾いたりしてるのでどこまで本気なのか分からないのだが、グランドピアノ弾かせたら段違いに巧い。伊達に芸大出じゃない。びびるほど巧い。本気で巧い。本気と書いてマジと読む。
そしてなんと言っても椎名林檎の声。
一昨年の武道館では「港町十三番地」を、今回は(DVDにも収められているが)「車屋さん」と、美空ひばりカヴァーを聞かせる。カヴァーに限らず、歌い方全般がますます“ひばり化”してます(笑)。声の出し方とか特に。まあ、それを最も感じさせたのが「同じ夜」「月に負け犬」といったソロ時代の曲であるというのは皮肉だが。

“ひばり化”する林檎を見て(聞いて)思う。彼女の最終ラインはそこなのだろう。
美空ひばりという人は演歌の人ではない。ジャズから洋楽から実に多才な人だった。
椎名林檎は、表面上の装飾ではなく(それを取り払い)、なお、変幻自在な多才さでこれからも楽しませてくれるに違いない。
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