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華氏911

監督:マイケル・ムーア/恵比寿ガーデンプレイス/★5(82点)本家gooDB公式サイト

この映画に最も貢献したのはジョージ・W・ブッシュではない。モンタージュ理論を確立したセルゲイ・M・エイゼンシュテインだ。正真正銘の“映画”。
前作『ボウリング〜』のレビューで、私は「これはアメリカの真実ではない」「本当はもっと酷い国」と書いた。そして、私の指摘するアメリカの酷い面を本作は余すところなく、いやそれ以上の内容で提示してくれた。だから5点・・・というわけではない。カンヌ審査委員長のタランティーノが言う通り、単純に映画として面白いからだ。

超話題作かつその内容故、映画は門外漢のジャーナリストまでがこの映画を批評する。
「映画としては面白いが、ドキュメンタリー、ジャーナリズムとしては今一つ。」
当たり前だ。
真のジャーナリズム、ドキュメンタリーというものは、余計な先入観を持たず、ありのままの現実を冷徹に見据えることが基本で、この映画はその対極にある。
ブッシュと直接対決もしなければ、直接イラクに出向くこともないのだからジャーナリズムではない。素材(の大半)がノン・フィクションというだけであって、制作者の意図が大きく介在している段階でドキュメンタリー(記録映画)ではない。
この映画で唯一ドキュメンタリー性があるとすれば、我が子にも軍隊入りを薦めその子を失った職業安定所のオバサンくらいのもんである。

これはムーアの思想を全面に押し出した正真正銘の“映画”なのだ。

映画に限らず、文学でも音楽でも絵画でも、あらゆる“表現物”は制作者の思想が伴う。映画は個人作業ではないため思想性が薄められることが多いが、ラブストーリーもヒューマンドラマも“思想”なのだ。怪獣だってカンフーだって“思想”なのだ。だから客観的視点を度外視したからといって非難される必要は全くない。いや、客観性を排除することで観客を主人公と同じ視点に置いたヒッチコック先生を見れば分かるように、むしろ、映画として正しいスタイルとも言えるだろう。

たしかに思想的な平等性は欠いている。
だが、ここで興味深いのは、「アメリカ国内のマスコミ報道が平等性を欠いている」ということを、当のマスコミの「捨て映像」をかき集めることで表現している点だ。
考えてみるがいい。開戦を宣言する直前の「化粧直し」をどのマスコミが放映するだろうか?ムーアはこの映像を拾い出し、化粧をしながら戦争を口にする大統領の姿を晒すことで観客に“映像として”訴えかけているのだ。

そして何より映画として非常に面白いのは編集の妙。
「イラクに自由を」と開戦発表する大統領に、楽し気に遊ぶイラクの子供達がカットバックで挿入される。モンタージュのお手本。今時の若い子に「勉強」として『ポチョムキン』を見せるよりいいんじゃないか?

私がこの映画をストーリー的にも評価しているのは、単にブッシュ批判に終始せず、最終的に「階級問題」に帰着した点である(前半の展開も社会派推理小説みたいで面白かったが)。
そう考えると、この映画の発想の発端は「大統領批判」などと大それたものではなく、「故郷は失業者で溢れているのに、何をテロテロ言ってるんだろう?」という素朴な疑問だったのかもしれないと思う(本当はただの山師なのかもしれないけど)。

日本公開2004年8月14日(2004年米)


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