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アルプススタンドのはしの方



「青春とは何か?」という問いに、真正面から真っ当で正当な答えを導き出した美しい舞台劇。ボロボロ泣いちゃった。
監督:城定秀夫/池袋HUMAXシネマズ/★4(80点)本家公式サイト

最初に悪口を書きます。

甲子園感もないし夏感もない。
ブラバンがいなければ、地方球場の秋の新人戦くらいにしか見えない。
夏の甲子園のスタンドなんて「あー暑い」てなことを口に出すのも嫌なほど暑いんですよ。
皆ドロドロに汗かいて、ベンチに入れない野球部員は真っ黒に日焼けして、普段は室内活動のブラバン部員は急な日焼けで真っ赤になって、容赦ない陽射しと異様な熱気である種トランス状態になっているものなのです。私はそんな高校野球が大嫌いです。なんで野球部ばっか優遇されんだよ。スワローズ戦は毎日見てるけどね。

話が横道に逸れましたが、この映画は「アルプススタンド」という世界観の構築には失敗しているのですが、「アルプススタンドのはしの方」という舞台空間を作ることには成功していると思います。
簡単に言ってしまえば、舞台劇で見たかった内容。

ワンシチュエーションで、上演時間と劇中時間がほぼリンクしていて、限定された空間と時間の中で、主人公たちは空間と時間を超えて成長する。
ある意味、舞台劇の王道です(悪く言えば、珍しくはない)。

しかしこの話は、自らが提示した「青春って何?」という問いに、自然な形で答えを導き出すのです。これがめちゃくちゃ美しい。

これは、「しょうがない」と言っていた子が「悔しい」と口にするまでの物語なのです。

試合を冷めた目で見ていた主人公(この小野莉奈って子がいいんだ。FLaMmeっていうすげー女優軍団の若手)が知らぬ間に熱くなっていることと、自分に言い聞かせていた諦めが素直な感情に変わっていく様がリンクするのです。

若者に似合うのは諦観じゃない。
諦めることが大人になることじゃないし、賢いことでもカッコイイことでもない。
だって、「しょうがない」って諦めるのは、逃げることと同じだから。
若者はもっと悔しがっていい。もっと悔しがればいい。

「青春」とは「悔しがる(悔しがれる)」こと。
この作品が導き出した美しい答え。

もうね、私が生まれた頃からスワローズファンという大先輩・村上春樹がそのエッセイの中で「スワローズの敗戦を毎日見続けることによって(人生に)負けることに身体を慣らす」的なことを書いていますが、若いうちはまだその境地に達しなくていいんですよ。
逆に、負けた翌日不機嫌になる巨人ファンや阪神ファンのオッサンはもっと大人になった方がいい。



2020年7月24日公開(2020年/日)

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