エピソードというか展開が圧倒的に不足してると思うんです。
106分の映画ですが、この内容だったら60分くらいが限界。30分くらいの短編だったら凄い傑作だったと思う。
いや、巧いんですよ。
漆を塗る男の手さばきと蛇口を磨く女の手さばきを符号として一致させる。この男女2人の物語であることを提示し、欠けたものを埋める(あるいは穢れたものを除く)相互関係であることを匂わせる。
あるいは冒頭。移動するカメラは例のアパートの前で止まり、背後からフレームインした少年が前に歩み続けるも、カメラは一歩も前へ進まない。つまりこの「カメラが立ち入れない場所」こそが重要ポイントであることを暗示する。と同時に、この映像が少年の視点ではなく永瀬正敏の夢であり、あの時の自分が立ち入れた場所(=記憶)に今の自分が立ち入れないことも表現している。
まあ個人的には、横浜聡子や山戸結希みたいな、巧さより本能的な何かで撮ってる人が好きですけど、この新人女性監督、巧いと思うんです。
その巧さがもっと観客を惹き付ける方向に向かえばいいのに。
最初にエピソード不足とか尺が長いとか書きましたが、それ以外にも、小道具の使い方なんかにも工夫の余地があると思うんです。
例えば場所の表現。例のアパートとか。近くに看板とか角にあるお店とか、観客の印象に残る何かを配置するだけで「ああ、あの場所ね」って分かるんです。永瀬正敏がボーッと立ってるだけじゃどこだか分からんよ。ずっとボーッとしてんだから。
「この画面で何を表現したいか」という映画的テクニック(思想といってもいい)はある監督だと思うんです。画面も綺麗だし。
これで、自分が表現したいものと観客が観たいものの“間”、あるいは時代のニーズとの“間”をもう少し詰められたら、いい監督になると思うんですけどねえ。
2019年2月1日公開(2019年/日)
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