いつ以来の再鑑賞だか分からないが、何度観ても痺れる。長いけどね。3時間3分。いやもう完璧な映画。
「戦後のドサクサ」ミステリー映画二大傑作の一つだと思うんです。ちなみにもう一つは『砂の器』ね。
元々は頼まれ仕事だったそうですが、内田吐夢の執念の結晶みたいな映画です。劇中のバンジュンとオーバーラップする。直ちにデジタルリマスターして後世に残すべき映画ですよ。
冒頭でナレーションが入ります。言わば「神の視点」でのナレーションです。
しかしこの映画に語り部は存在しない。その後ナレーションが使われることはないし、『砂の器』のように丹波哲郎刑事の視点で物語が語られるわけじゃない。三國連太郎、伴淳三郎、左幸子それぞれの物語が描かれる(強いて言えば終盤は高倉健(自身の物語は語られない)が物語を進行する)。
こういう作りは登場人物の誰かに感情移入しにくいかもしれません。しかしこれは、神の視点の下で蠢く人間模様のドラマなのです。言い換えれば「ギリシャ悲劇」。
『砂の器』の松本清張はミステリーを文学に押し上げましたが、この『飢餓海峡』は水上勉が文学からミステリーへアプローチしたように思います。いずれにせよ、トリックや謎解きという本格推理よりも、人間ドラマに重きを置いている点が映画向きなのです。
(1965年 東映)
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