野外映画上映会場の墓場。墓石に思いっきり「HITCHCOCK」と刻まれていたと記憶しています。見間違いかもしれないけど。
つまりこの映画、『裏窓』で始まり、設定は『めまい』、謎解きは『北北西に進路を取れ』なんだと思うんです。いやもう、今時の『裏窓』はドローンなんですな。
ヒロイン登場シーンはガッツリ「ヒッチコック風」の画面だしね。あー、でも地下道から出てくる所は『第三の男』だなあ、とか。よく映画を知ってる監督なのでしょう。
ヒロインが観ていたのは『百万長者と結婚する方法』だと思うし。違うかな?
あー、そうか。このヒロインは人形まで持って『百万長者と結婚する方法』を探していたんだな。なかなかの伏線だ。
ただこの映画、マーベルアメコミ物より現実的なのに、マーベルアメコミ物よりトンデモ話に見えるんです。
ん?今時はトンデモ本って知らないのか?
正直言って、ファム・ファタール物だと思って観ていると「なんじゃこりゃ?」的な映画なんですよ。
なんだよ「ソングライター」って。あの曲もこの曲もお前が作ったのかよ。筒美京平かよ。
だけど、ちょっと見方を変えると、突然視界が開けるんです。
この主人公=2代目ピーター・パーカーが何者かは語られないんですが、何となく「アーティスト崩れ」のような感じがするんです。
この街を文字通りクソまみれの街だと思いながら、文字通り屁みたいな暮らしをしている。
でもド田舎で腐ってるわけじゃなく、LAで一人暮らしでブラブラしている。出会う女性たちもハリウッドに憧れる女優崩れ達だし。カート・コバーンに憧れている所を見るとミュージシャン志望だったのかもしれません。
そういう「何者かに憧れて何者かになれなかった」「でもまだどこか諦めきれない」人物なのでしょう。
もし彼が「ミュージシャン崩れ」だと仮定すると、謎の老人「ソングライター」と符合するのです。
簡単に(乱暴に)言えば、山の上にそびえ立つ「HOLLYWOOD」の文字を見上げながら地べたを這いつくばって毎日暮らしている、黒澤明『天国と地獄』の山崎努側の物語なのです。
彼が怪しげな都市伝説や陰謀論に惹かれるのは、自分がクソまみれの街で屁みたいな人生を送っているのは自分のせいじゃなくて「誰かのせい」だと信じている(信じたい)から。
彼が一目惚れした“運命の女”は“幻”かと思ったら幻じゃなかった。
でもそれを追っていくうちに、彼が憧れた“何者”か(それは彼のアイデンティティでもある)は、実は“幻”だったことを知ってしまう。
これはそういう物語なんじゃないかと私は解釈しました。
これ、多用な解釈が可能な映画で、人によって解釈(の切り口)がだいぶ異なると思うんです。それ故「怪作」と呼ばれるんだと思います。
ただ、面白かったんだけど、何年か後には忘れてる可能性もある。もうこういうのにワクワクする年齢じゃないんだよ。
日本公開2018年10月13日(2018年/米)
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