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食べる女



久世光彦か森田芳光で観たかった。


監督:生野慈朗/新宿バルト9/★3(55点)本家公式サイト
一昨年だったか、筒井ともみさんに仕事でお会いしたことがあります。その時調子こいて「『それから』以来のファンです」と言ったもんだから、森田芳光のこと、松田優作のこと(仕事と関係ない話を)延々うかがいまして。その際「まだ公表できないんだけど」と、この映画を企画中であると教えてくれました。小泉今日子と朝まで飲んだそうですよ。
それまで筒井さんは「掛け持ちしない」というポリシーで一つの仕事をゆったりやってきたそうですが、最近は年齢のせいか(失礼)やりたいことをやりたくなったそうですよ。なもんだから、自らの原作を本業の脚本はもちろん、企画・プロデュースして映画化したとか。

話自体はさすがだなと思います。
「自分らしく生きればいい」という女性に向けた応援歌なのでしょう。
月や水という“女性”的なイメージを出し、豪華女優陣各々に過不足なく見せ場を与える。

“食”と“性”を絡めて描く手法はよくあります。

代表格は伊丹十三。中でも『タンポポ』は真正面から挑んだ映画だと言っていいでしょう。
森田芳光も食事に“記号的”な意味合いを持たせることが好きな監督でした。今にして思えば、筒井ともみとは『失楽園』で“食と性”に取り組んでいたのかもしれません。
少し話が横道にそれますが、筒井ともみ脚本・小泉今日子主演は「センセイの鞄」という川上弘美原作の傑作単発ドラマがあり、その演出は久世光彦でした。久世光彦演出「寺内貫太郎一家」の脚本・向田邦子は食通で、食にまつわるエッセイを多数残しているのはもちろん、「寺内貫太郎一家」の脚本では、食卓のすき焼きの牛肉に値段まで書かれていたそうですよ。
そう考えると「縁」なんですよね。
向田邦子の『あ・うん』は筒井ともみ脚本・久世光彦演出でリメイクしているし(向田邦子新春シリーズ)、向田邦子『修羅のごとく』は筒井ともみ脚本・森田芳光監督でリメイクしている。もちろん向田邦子賞も獲ってるしね。森田芳光が松田優作で撮った『家族ゲーム』の長渕剛テレビ版は筒井ともみが脚本を書いている。そして、松田優作を介して『それから』で森田君と筒井さんは出会う。

ずいぶん余計なことを延々書きましたが、この映画はどうだったのかと言うと、んー、どうかなあ?
正直、豪華女優陣は美しく撮れてないし、そもそも料理が美味しそうに見えない。
前者の意図は分かるんです。女性の自然体の姿を撮りたかったのでしょう。それにしてもねえ。もっと「自然な美しさ」を撮れなかったもんか。
「あんた美味しそうに食べるね」って台詞で言うけど、感心するほど美味しそうに食べてるように見えない。

TBSドラマの名演出家にこんなこと言うのもナンですけどね、とにかくテレビ的な凡庸な演出ということもさることながら、決定的なのは「観客の観たい画面」を見せてくれないというところにあるんです。
象徴的なのが「井戸」。少女たちが井戸を覗きますよね。この時、観客も一緒に井戸の中を見たいんです。ところが(おそらくセットの都合でしょうが)中を見せてくれない。これ、映画的には見せないことに“意味”が生じちゃうんです。ホラーなんかでよく使われる手法ですが、そこにある(であろう)“何か”に観客は期待を寄せてしまう。この監督は、そういう所が分かっていない。

そもそも、美しい豪華女優陣を見たい!あるいは食べ物が美味しそう!という観客の期待に応えられていない。
この企画の肝じゃないの?



2018年9月21日公開(2018年 日)

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