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不思議惑星キン・ザ・ザ <デジタル・リマスター版>



ユルさがことさら強調されるけど、とてもよく出来た、むしろ計算高い映画だと思う。

監督:ゲオルギー・ダネリヤ/ユジク阿佐ヶ谷/★4(75点)本家公式サイト
恥ずかしながら、2017年にデジタル・リマスター版の2番館上映で初鑑賞。

私の古い記憶と今回調べた結果で書くと、日本で最初に上映されたのは、1989年池袋の旧文芸座(たぶん文芸座2)の「ソビエトSF映画祭」らしい。その映画祭は覚えている。当時友人の部屋にチラシが貼ってあり、彼から『キン・ザ・ザ』面白いって話も聞いていた。
私は勝手に『ソラリス』的なイメージを持ってたけどね。

時は平成元年。ソ連はゴルバチョフのペレストロイカの最中。今にして思えば、ソ連崩壊の前兆の頃。映画の制作はチェルノブイリの頃だしね。それまでソ連で禁止、タブーだったことが徐々に解禁され始めた頃なのよ。グラスノスチって舌噛みそうな名前の情報公開でね。
日本でも片山まさゆき「ウォッカ・タイム」とか、いしかわじゅん「うえぽん」とか“ソ連を笑う”漫画も連載されてたし(笑)。

その後、その昔ソビエト映画専門館だった今のキネカ錦糸町が、1991年に『キン・ザ・ザ』を上映している(だから日本公開は1991年と表記されることが多い)。評判が良かったのか、各地で上映され始め、徐々に「知る人ぞ知る」映画となっていく。『ソラリス』は岩波だったけど『キン・ザ・ザ』は錦糸町。
同じ1991年、ソビエト連邦は消滅。
たぶん監督は自分のことを「グルジア人」と公言できるようになったことだろう。

10年後の2001年にはニュープリント&新訳版が渋谷ユーロスペースで上映されたらしい。この時に「ユルい」「脱力系」がウリになったと記憶しています。
ちなみに同じ2001年、映画『チェブラーシカ』が日本でも上映され、ちょっとしたブームに。
それから15年。制作から30年でデジタル・リマスター。とうとう「カルト」の冠が(笑)。

何故こんな昔話をダラダラ書いているかというと、この映画がソ連で作られた背景を少し理解すべきだと思ったからです。
何故そんなことを思ったかというと、(先に書いたように制作から30年も経ってから初めて観たんですが)すげーちゃんと出来てる映画だったからです。
「ユルい」「カルト」的なことが先行して、『シベ超』的な愛すべきダメ映画なのかと思っていたのですが、全然違う。伏線の張り方、回収の仕方、ちょっとした見せ方一つとってもすごくちゃんとした映画。そもそも金が掛かってる。

ソ連でも巨匠と呼ばれる監督の作品だと後に知ったのですが、観ている最中でも「偶然できた面白映画」じゃないことは分かる。映画を分かってる人が計算して作っている。その脱力感も計算のうち。ちゃんと計算してるのに、計算してると思わせない巧みさもある。

例えばこの映画、一人称視点なんですね。主人公の視点から決してブレることはない。
つまり、観客も主人公と一緒に“旅”をしているのです。
だから、瞬間移動に一緒に戸惑い、謎の文化・風習に一緒に驚き、主人公と一緒に望郷の念にとらわれ、地球に戻っても(映画館を出ても)思わず「クー!」って言っちゃうのです。

つまり、ちゃんとした映画には作り手の「意図」があるのです。そして、その意図には「背景」が伴うのです。たぶん。

この映画からは(当然の如く)全体主義や独裁者による理不尽な制度といったソ連的なものに対する批判(の暗喩)が読み取れます。
だけど実は「マッチが何箱欲しい」だの「星を買い取る」だの、資本主義的な話でもある。途中出てくるアルファ星なんかも、一見ユートピアだが排他主義であることが描かれる。キン・ザ・ザじゃ家畜扱いだったけどサボテンだからね。

つまりこの映画は、単一的な視点での制度批判でもなければ、社会主義とか資本主義がどうとかいうことでもない。もっと根源的な“人間性”の映画なんだと思うのです。
牛みたいな鼻輪を付けられてても、友人を助ける心があり、家族の声を電話で聞けば泣く。ディストピアの中でも失っちゃいけない人としての何かがある。

ゴタゴタした国情の中で、ソ連の文化人たちはそこに気付いていたのです。
ソ連の若者を中心に大ヒットしたそうですが、若者たちも何かを感じ取っていたのでしょう。体制に石を投げるだけじゃなく、笑い飛ばしていいんだと思ったのかもしれません。
笑うって、根源的な“人間らしさ”なんですよ。
この映画自体が、人として失っちゃいけない“ユーモア”を提示しているのです。



デジタルリ・マスター版公開2016年8月20日(1986年/ソ連=グルジア共和国)

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