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永い言い訳



日本映画界きっての才媛=西川美和が描く女のいない世界。ほんと嫌な女。

監督:西川美和/ユナイテッド・シネマとしまえん/
★5(91点)本家公式サイト
映画冒頭、モッくんの髪を深津絵里がカットします。その手際からプロであることが推測されます。
やがて、メールなのかLINEなのか、1コールだけスマホが鳴動します。その直後にカメラが抜くモッくんの顔と深津絵里の顔。それだけで「女から」モッくんへの連絡であることが観客に分かるのです。いや、モッくんも気付いてるし、深津絵里も「女から」ということに気付いている。その二人の感情を観客も気付く。完璧なオープニング。

そして深津絵里が出かけます。「間に合うかな?」とモッくんが言います。「無理かも(ダメかもだったかな?)」と深津絵里が答えます。
「(時間に)間に合うかな?」「無理かも」という会話に見せかけて、「(夫婦関係の修復に)間に合うかな?」「無理かも」というダブルミーニング。
そして、この後、二人が会うことはない。この短い時間、狭い空間で、夫婦関係(=物語の前提)を観せきってしまう。完璧を通り越して映画史上に残すべき完成度の高さだと私は思うのです。

この映画は早々に女性陣を舞台から降ろします。黒木華ちゃんも含めて、男どもの世界から女性が突然消えるのです。前作『夢売るふたり』で「女性の生き様映画」を撮った日本映画界きっての才媛=西川美和は、今回「女性のいない世界」を描くのです。
まるで西川美和が男どもに向かって「女のいない世界はどうよ?」と投げかけているようです。ほんと嫌な女。
さらに「子育てって免罪符ですよね」と池松壮亮君に痛い所を付かせる。ほんと嫌な女。
それでも何とか男だけでやっていけるようになった頃合いを見計らって、科学館の女先生を投じる。そしてまた世界をかき回す。ほんと西川美和、嫌な女。
それもまた、山田真歩には申し訳ないけど、絶世のパーフェクトな美女とかじゃない。ここで山田真歩かっ!って絶妙なキャスティング。竹原ピストル、堀内敬子ってキャスティングも絶妙でほんと最高。

この映画、「男が泣く」というキーワードを何度も出します。涙もろい竹原ピストルに対してモッくんは泣けなかった男として描かれます。
(ついでに言うなら「携帯の留守電メッセージを何度も聞く男」と「送信されなかったメールを見てしまう男」、「携帯を愛おしく抱きしめる男」と「スマホを投げつける男」、言い換えれば「家族は幸せだった頃を忘れられない男」と「夫婦の崩壊を知ってしまった男」という対立構図にもなっている)

そんな泣けなかった男が涙を流すまでの物語・・・と思いきや、泣かないんですね。
小説を書くことで消化(昇華)する。西川美和はそんな簡単に男を泣かせない。大人の映画。

もっとも、私は西川美和作品をよく「蛇足」と評することが多いのですが、この映画も出版記念パーティーまで描かなくてもよかったと思うんですよね。執筆し始めた辺りで終えてもよかった。あのパーティーシーンのメリットは、少年が坊主頭の中学生になってたことくらい。坊主頭で学ランってことは、私立中学を受験しなかったか、受験に失敗したんだな。それもまた人生。

西川美和自身が結婚してるのか家族がいるのかどうか不明な人なんですが、もし噂通り独身なのだとしたら、この映画は、モッくんに自身を投影させた自分自身の『永い言い訳』のようにも思えるんですよね。

2016年10月14日公開(2016年 日)

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