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岸辺の旅



監督:黒沢清/テアトル新宿/
★4(75点)本家公式サイト

この世界は不安定であることを描き続ける“タルコフスキー大好き”作家=黒沢清の『惑星ソラリス』。
ファーストショットはピアノを弾く少女。窓から風が吹き込み、白いレースのカーテンが揺れる。
(私の記憶では)セカンドショットで主人公の深津絵里を映す。ただし横顔。それも髪に隠れて顔は見えない。普通なら切り返しで顔を見せるところを見せない。黒沢清には明確な意図がある。
その次は母娘と話す深津絵里の背中を映し、やっと主人公の顔が画面に登場するのは「先生(と娘)のリズムが合わない」と言われる場面。
黒沢清はこのシーンで、この世界(世間)に顔を向けていない主人公を表現する。そして、「(この世界と)あなたはリズムが合わない」という言葉を浴びせる。

物語は徹底して深津絵里の視点で語られる。
我々観客は主人公と一緒に新たな発見をしていく。
夫の空白の三年間。アッチの世界のこと。蒼井優先生のこと。

奥貫かおりを連れ回す悪霊(と言っていいだろう)がいる。彼を中心に据えると『回路』になるのだろう。しかしこの映画は善霊(<そんな言葉はない)である浅野忠信を中心に描かれる。
ホラー的な演出手法を多数用いながら、浅野忠信をはじめとする死人たち(先の悪霊も含め)は人間味があり、決して恐ろしくない。
むしろ、物語序盤の深津絵里や奥貫かおりといった生きている人間の方が無表情で精気がない。なんなら蒼井優先生が最も恐ろしい。こんな蒼井優先生が見たいんですよ。なんだよ『東京家族』とか。

黒沢清としては比較的分かりやすく、一般的にも受け入れやすい題材だったのだろう。映画館の観客は割と高めの年齢層だった。
しかし多くの観客は、いずれ消えていく夫を予感し、涙ながらの別れという“感動”を待っていたかもしれない。

そんなことするわけねーじゃん。

それどころか、世間とリズムが合わなかった深津絵里が生きる力を取り戻したのか、奥貫かおりみたいに「死んだまま生きていく」のか、明確な回答を与えてくれない。
いや、きっと、深津絵里は生きる力を取り戻したのだろう。
なぜなら、白玉をはじめとして黒沢清には珍しく“食”の話題が多く、「水が合う」なんて台詞まで交えて、生きる力を得る過程を描いているように思える。
そして決定打はラスト。深津絵里は海を背景に立ち上がる。海は生命の象徴なのだ。

そういうところが分かりにくいんだよ!

2015年10月1日公開(2015年 日本=仏)

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