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トム・アット・ザ・ファーム

トム・アット・ザ・ファーム監督:グザヴィエ・ドラン/新宿シネマカリテ/★4(88点)本家公式サイト

嘘と自覚とDV。弱冠25歳の天才「平成生まれじゃん!」でおなじみグザヴィエ・ドランの恐るべき若造っぷりをまざまざと見せつけられる映画。
いきなり終盤のネタバレを書きますけど、一人の女が物語に投入されます。主人公の主観で進んでいた話が、主人公を客観的に見る人物が登場することによって、観客も一緒に(初めて)主人公を客観視できるのです。そして「ああ、これがDVだ」と気付かされるのです。

言わばミステリーの手法で、悪く言えば何でもかんでも「後から分かる」手法なんですが、実は肝心なことは明かしてくれない。それはもう観客に委ねられる。「衝撃の結末!」「わー!ビックリ!」ではなく、観客はじっくりと思考を巡らせなければならないのです。
例えば・・・

友人の死因は結局明かされないままなんですね。母親が「事故って何よ!」と泣き叫びますが、おそらく母親には伝えられない、アレ絡みの死因なんでしょう。ゲイ仲間との恋愛のもつれで刺殺されたとか、蔑視する者らに嬲り殺されたとか。

そして母親は、死んだ息子の性癖をおそらく知っていたと推測されます。正確には、知っていたけど受け入れられなかった。知ってしまった自覚すらなくしていたかもしれません。
母親は執拗に「息子の彼女」の話を聞きたがります。葬式に来ないことにこだわり、電話で話した(嘘の)内容をやたら聞きたがる。普通、生きていた証は他にも多々あるはずです。仕事仲間というトムが来訪しているんだから、聞くことは他にもっとあるでしょう。しかしこの母親が異常に知りたがるのは「息子の彼女」のことばかりなのです。

もう一つ明かされない点として、兄のことがあります。
彼が街の嫌われ者である理由は、飲み屋のバーテン(グザヴィエ・ドランの実父が演じている)から語られますが、じゃあどうして兄がそれほど逆上したのか、その心情は明かされません。
いくら閉鎖的な街で噂が怖くても、そこまでズタボロにしなくてもねえ、って思いません?
きっと、触れられたくない点に触れられたのですよ。
推測するに、この兄自身にもソノ気があったか、あるいは美しい弟を溺愛していたか。一部の解説では「母親が弟ばかり愛したがために曲がってしまった兄」的な書かれ方もしていますが、いやあ、それだったら兄弟でタンゴ習ったりしないでしょ?もしかすると、あの赤いドレスも弟のために買った物かもしれません。兄は「自覚」していたのか、あるいは痛い所を突かれて初めて「自覚」したのか、それは分かりませんけど。

その一方で、ハッキリキッパリ観客に明示するものもあります。
主人公トムが恋人の死をメソメソ悲しんで物語が進行しますが、前述した“主人公を客観視する人物の投入”によって、「恋人はバイ」「しかもヤリ珍」「お前、恋人なんかじゃなかったんだよ」ということが明かされます。
この段階で驚愕なんですが、DVで精神がまいっちゃってるトムは受け入れられないんですね。
怖っ!
恋人を亡くしたことで自分の居場所を見失っているのに、その根底も崩れてしまうのです。怖っ!

この映画で描かれるのは「嘘」と「自覚(あるいは受け入れること)」ではないかと思うのです。
物語の表面上は登場人物たちのつく「嘘」ですが、直接描かれないその背後には登場人物たちの「自覚(無自覚)」が流れている。

いま私の最もお気に入りのグザヴィエ・ドラン。
これまで私小説的な話ばかりだったが、こうした原作物も自分の土俵で描けることに感心した。

日本公開2014年10月25日(2013年 カナダ=仏)

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