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インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌

インサイド・ルーウィン・デイヴィス監督:ジョエル&イーサン・コーエン/新宿武蔵野館/★5(90点)本家公式サイト

実は村上春樹原作って言われたら、俺は信じたと思う。
私には、それくらい春樹っぽい話に思えた。

金、女、いろんなことが上手くいかない。猫まで失踪する。この世界に自分の居場所がない。親友は死んでしまった。その理由も分からない。ちょっとしたきっかけから遠い場所へ旅立つ。しかし旅の目的は果たせない。明確な変化に出会えたわけでもない。昔の女の住む街を横目で見ながら、自分の中に小さな変化を認める。このままじゃいけない、変わろう。父に会いに行く。ステージでは新しい時代を予感させるような才能ある若者が歌っている。世界はネジで巻かれたように少しずつ動いている・・・。
そう考えれば、井上陽水のような(アクの強い)世界観を歌う主人公が、はしだのりひことシューベルツみたいな曲を聞かされてる時の顔は「やれやれ」と言っているようではないか。

村上春樹の好むアメリカ文学とコーエン兄弟の好む文学とが同種のものなのかもしれない。
例えば「キャッチャー・イン・ザ・ライ」。あるいは「ロング・グッドバイ」。
この映画の“読後感”は「ライ麦畑〜」と似ているように思えるし、ある意味チャンドラー的なハードボイルドにも見える。
この映画は話があってないようなもんで、ストーリーで魅せるのではなく、主人公が置かれた状況下で右往左往する(自分の居場所を探す)物語なのだろう。

主人公はほとんど笑顔を見せず、やたら狭い廊下を歩き、寝場所となるカウチを探し続ける。周囲の人物はどこか気持ち悪いオカシナ人たちで、彼はいつも困ったような顔をしている。
これはコーエン兄弟特有のコメディ描写であると同時に、主人公ルーウィンの目に映る世界なのだ。

回想録が原案だそうだが、インテリ兄弟はそれを私小説として料理した。
万人受けする映画ではない。私小説と同じように、あるいはルーウィン・デイヴィスの歌と同じように。
だが、誰かには響く映画だと思う。
少なくとも私には、オスカー・アイザックの歌声をはじめ、実に見事な映画だった。

日本公開2014年5月30日(2013年 米)

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