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もらとりあむタマ子

もらとりあむタマ子監督:山下敦弘/新宿武蔵野館/
★5(94点)本家公式サイト

山下敦弘、遂に小津の域に達する。グッときた。(レビューは『晩春』のネタバレがあるよ)
「秋と冬のタマ子」はエムオンTVで観ていて、春・夏編をとても楽しみにしていた映画。ま、山下映画はいつも楽しみにしているんですけどね。
なんでも『松ヶ根乱射事件』以来、久々のオリジナル脚本だそうで。

父親の再婚話辺りでふと思ったのですが、これは『晩春』の本歌取なのではないだろうか。

結論を先に言えば、「父娘二人暮らしの家から娘を出すまでの話」なんです。
縁談じゃないし、視点の中心は父ではなく娘なので分かりにくいけれど、たぶん小津なんですよ。
母親も姉も周到に画面から排除し、父娘二人暮らしを強調する。多くの時間を食卓で費やして、現代日本でも自然に“座った状態”に二人を配置し、カメラを低く置く。たぶん計算してると思うんです。

そう考えると、向井康介の脚本は、まるで野田高梧が降臨したかの如く「行間を読ませる」台詞回しが冴え渡ってるように思えてくる。

「甲府スポーツ(笑)」って女子の噂話を遠巻きに聞かせることで、タマ子が同級生に会いたくない理由をほのめかす。
「大晦日まで仕事なの?」という台詞で就職に希望が持てないタマ子の気持ちをうかがわせる。
中でも秀逸なのは旅行のクダリ。
「タバタさんとじゃないって」
この一言だけで、この家に母親がいない理由を全て説明してしまう。

旅行といえば、『晩春』では話題の(?)父娘旅行シーンがありますが、この映画では、
「父さんと行くか」「絶対無理」
と現代風に切って捨てるわけです。ここにも小津の本歌取が見え隠れする。
山下・向井コンビのオリジナル前作『松ヶ根乱射事件』で、図らずも私は「平成の今村昌平」と山下敦弘を評しましたが、彼らは遂に小津・野田の域に達したのです。

父が食事を作ったり娘の下着を洗濯したりと至って現代的な『晩春』ですが、父娘の根幹はそう変わらないのかもしれません。
『あしたの私のつくり方』以来久々にいい演技を見せてくれた前田敦子は、原節子のように「汚らわしいわ」とは言いませんし、壺を見ながら泣いたりしませんが、父の再婚話に拒否反応を見せます。
そしてこの父の再婚話は、ただの1エピソードではなく、『晩春』同様、彼女に変革をもたらす重要な転機となるのです。彼女は、実際にあるかないかも分からない父親の再婚話に、“自分の居場所”を失うことに気付くのです。

私がこの映画でグッときたのは、それに気付く直前、「富田靖子いいやつだ」と知った後に、自転車を押しながら母親に電話するシーン。
自転車を押す彼女を正面から捉えたカメラは、手持ちで後ろに下がるんですね。その時一瞬、少しだけカメラがふらつく。それまでずっと小津風に固定で安定していたカメラが揺れる。それは、本当に本当の偶然で、彼女の気持ちの揺れとリンクしたように見える奇跡の瞬間。ステディカムなんか糞食らえ!わざとらしくカメラを振り回すのも糞食らえ!と思うわけですよ。

2013年11月23日公開(2013年 日)

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