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夢売るふたり

夢売るふたり監督:西川美和/ユナイテッドシネマとしまえん/
★4(88点)本家公式サイト

女性の生き様映画であり、「どこまで浮気を許せるか」の物語。惚れ惚れするほど巧い。巧すぎて鼻につく。
日本映画界きっての才媛=西川美和。頭が良すぎて蛇に足を書くようなことをする監督だと私は思っているんだが、ただねえ、巧いんだよこの人。惚れ惚れするほど巧い。巧すぎて鼻につく(笑)。

これから、この映画がどれほど巧いかということを述べながら、私好みの各ジャンル随一の名女優競演の面白さをチョイチョイ挟みつつ、マクロ的には「女性の生き様映画」であり、ミクロ的には「どこまで浮気を許せるか」の物語であることを書きます。どうぞよろしく。

自転車をこぐんですよ。松たか子を後ろに乗せて、阿部サダヲがゆるい坂道を登っていく。交番前で降りたりしてね。
交番前で二人乗りを避けるのも肝で、一つには、この夫婦は大悪党ではなく、普通の小市民的感覚を持った人であることが分かる。もう一つは、一度降りることで、逆に「二人で坂を登ってますよ」ということを印象付けることになる。そう、彼らが仕掛けた結婚詐欺は、二人の共同作業なのだ。そして、後に彼女が言う「誰かの人生に乗っかってる」という言葉と重なるのだ。

ウェイトリフティングの女の子を騙す途中で、阿部サダヲが“一人”で自転車で坂道を“下ってくる”シーンが入ります。
この辺から、彼の独断行動が始まります。と同時に、この計画が下り坂に入っていくのです。

彼が独断で選んだターゲットは、日本三大不幸女優の一人=【木村多江】。
ここから松たか子の気持ちが大きく揺れ始めます。
まず、今までのターゲットの誰よりも美人であること。なにせそれまでは、クドカンドラマの面白リリーフ=【猫背椿】とかなんだからさ。
そして子供がいること。これは松たか子にとって圧倒的な弱みなんですね。
そしてなんと言っても、包丁を持ちだしたこと。料理人にとって包丁は命なんです。夫は“心”まで持って行ってしまうかもしれないという不安がよぎる。
豪快姉さん=【鈴木砂羽】との最初の浮気で逆上したものの、肉体的な関係は必死に目をつぶってきた。しかし、心まで動く(かもしれない)ことはさすがに許容できない。
私がこの映画を(ミクロ的な視点で)「どこまで浮気を許せるか」の物語と呼ぶ所以はここにあります。
(そしてその包丁が後の事態変化の大きな要因になるという巧さ)

西川美和は、主要女性キャストのキャラクター設定にも周到な計算を見せます。

豪快姉さん=鈴木砂羽と、「あんた出過ぎ」でお馴染み香川照之のキスシーンという、邦画マニアにはたまらない爆笑シーンで始まりますが、夫婦は外じゃキスしないよね。このワンショットだけで不倫を端的に描写します。
一方、唯一夫がいる身分の松たか子には、いやらしいくらいに女性“性”を描写します。おそらく「妻である以前に女である」ことを描写しているのでしょう。
また、今やすっかり恨み節女優となった【田中麗奈】には、結婚以外の社会的成功をそこそこ与えている(と思われる)。彼女には、逆上するだけの充分な“設定”を与えているのです。

そしてなんと言っても、ここを強調して言いたいのですが、いま日本で男運のないダメ女を演じさせたら右に出るものがいない【安藤玉恵】に、主要登場人物の中で最もドン底の設定を与えておきながら、「私は幸せだ」と言わせるのです。「自分の足で立ってるから」と。なんてことでしょう!

加害者側の松たか子には「人の人生に乗っかっている」と言わせ、被害者のほぼ全てが「自分の足で立っている」という構図なのです。

結婚した女 vs 結婚を渇望する女

という構図でありつつ、

夫に人生を捧げ自分の人生が無い女 vs 自立している女

さらに、(女として見てもらえなくなった)妻 vs 女性

という構図でもあるのです。

(実際、最後の“性”については、松たか子がウェイトリフティングの彼女のことを言うでしょ。「やめない?さすがにあれはキツいでしょ?」って。要するに、自分が優位に立っているので対立構図が成立せず、叩く必要がない、と言っているのです)

才媛・西川美和は、何気ない顔をしてストーリーで観客を楽しませつつ、こうした構図を提示して、「どっちが幸せなの?」と、女性の生き様を観客に問うのです。

余談

オリジナルストーリーでこれだけの話を書けるのは、凄いことだと思う。
おそらく取材も入念で、随所に「取材したんだろうなあ」と思う所が多々ある。「もう居抜きの店は嫌なんだよ」なんて台詞、知らないと書けませんよ。あと、25歳の風俗嬢が本当は34歳とかね。これは俺、経験上知ってる。

2012年9月8日公開(2012年 日)

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