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MY HOUSE

MY HOUSE監督:堤幸彦/新宿バルト9/
★4(75点)本家公式サイト

生きるって何だろう?堤幸彦の『裸の島』。テクニシャン堤幸彦の作家性の一端を見た気がする。
得意技の凝った演出を排し・・・というウリだが、テクニシャン堤幸彦はテクニックとして音楽の排除と白黒映像を利用したように思う。白黒映像は「今までの堤幸彦とは違う」ことの宣言として、音楽の排除は「音」の演出のために。
公園ではのどかな鳥の鳴き声が聞こえ、木村多江は苛立ったような音を立てながら掃除機をかける。

喧騒の街で競争社会に生きることを強いられる少年は、ペプシを飲みながら亀に憧れる。
一方、静かな生活を自ら選ぶ主人公・鈴本は、その前身は明かさないが、おそらく競争社会から降りた人間なのだろう。

少年は突発的な暴力に身を落とすが、これを「勉強ばっかりしてるからだ!」と非難する気はない。勉学に励むこと自体は悪くないと私は思う。脳みそは筋肉と同じで、鍛えれば強くなる。きっとこの少年は、仮に将来職を失っても、主人公の鈴本と同じように知恵を使って生きていけるだろう。若い時に脳を鍛えなかった人間は、人の物を盗んだり、ゴミの中から食べ物を漁ったり、場当たり的な発想しか身に付かない。
ただ、塾はしきりに数学の法則や定理を持ち出すが、世の中はそうそう法則や定理で割り切れるもんじゃないんだよねぇ。
生きる知恵って「持ってる引き出しの多さ」なんじゃないかと思う。そして、その“引き出し”は、社会との関わりで得られる経験値によるんだと思う。おっと、話が横道にそれた。

この少年の真の不幸は、その「心」を分かってくれる人間がいなかったことだ。
好成績でも褒められず、もっと上を目指せと言われる。亀の死に関しても、級友は「外来種は生態系を壊す」としたり顔で言い、父親は勉学の邪魔だと言い放つ。母親に至っては、子供に声をかけることもなく、家から一歩も出ずに衛生を保つ(防衛する)ことしかしない。
こうした少年が心ある大人と出会う映画は多くあるが、この映画はそうした救いの手も差し伸べない。

競争社会に生きることを強いられた少年と競争社会から降りた(であろう)大人の物語であるが、映画は、どちらに優劣をつけているわけでもないように思う。

鈴本に突然の不幸が襲う。いやもう、そもそも彼は楽しそうじゃない。それでも空缶を抱えて自転車で街を走る姿は、まるで『裸の島』みたいだ。
生きるって何だろう?
それでも、食卓を囲み人と触れ合える「我が家」を持つ鈴本の方が幸せなんだろうか?

キャラや設定が少々ステロタイプな気もするが、堤幸彦の作家性の一端を見たような気がする。
彼の映画は、大作・娯楽映画に於いても、どこか「理不尽なものとの戦い」が根底にあるように思えてきた。

2012年5月26日公開(2011年 日)

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