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秋刀魚の味

監督:小津安二郎/BS(再鑑賞)
★4(75点)本家

久しぶりに観直したら、なかなかの喜劇だった。そしてなかなか凄い物語だった。
最初に誤解のないように言っときますけど、私は小津作品が好きです。立派な監督だと思うし、素晴らしい作品群だと思っています。
だけど、「小津だからいい作品」という盲目的な思い込みはよしましょうよ、と思っている。
小津だから、とか構えずに素直に観ればいいんですよ。
そう思ってこの映画を(20年ぶりくらいに)観たら、かなり可笑しい。ゲラゲラ笑いながら観ちゃった。だって、まさか小津映画で「若い嫁さんとアッチの方はどうだい?」なんてシモネタが飛び出してくると思わないでしょ。

結果として小津の遺作となってしまったが、まだ小津は57歳頃の作品。
とは言え、ヒットメーカーで巨匠の名をままにし紫綬褒章まで受章していて、今で言えばさしずめ宮崎駿みたいな存在だったんじゃないかと思う。

で、そうした“権威”を批判する奴が当然出てくるわけだ。
まだ30歳にも満たない大島渚とか吉田喜重とか。
毎度毎度、娘を嫁にやるとかやらないとか、同窓会をやるとかやらないとか、今はそんなこと言ってる時代じゃねーんだよ!政治の季節だ!虚無感こそリアルだ!総括だ!戒厳令だ!日本の夜と霧だバカヤロー!
と言ったかどうか知らないが(<言ってない)、
旧態依然とした作家として小津を批判したのは事実だ。

おそらく、当時リアルタイムで観ていたら、私も同じ事を言ったかもしれない。
小津は時代を斬れていない!小津は今(当時)という時代を分かっていない!とかなんとか。

だけどね、制作から50年もの年月を経て、私もある程度の年齢になって、初めてこの映画が、世相を斬っているのではなく、「時代の移り変わり」を描いた映画なんじゃないかと気付いたのです。

息子夫婦は団地で暮らし、子供も作らず夫婦共働き。家電を欲しがり、ゴルフもしたい。これは当時の“世相”であって、“日常”だと思うのです。
同窓会を開き、年老いた恩師に会い、戦友(部下)に出会い、亡妻に似た(?)バーのママに会う。そこに劇的な何かが起こるわけではない。すべて日常の一コマにすぎない。
そんな日常の一コマの中で、娘の婚期を心配する。会社のOL(なんて言葉は当時なかったが)が寿退社し、恩師の行き遅れた娘に会う。

そして、娘が嫁いだ後、娘のいない家の中で、自分の最も身近な“日常”に変化が起きたことに気付く。
その変化に気付いたことで初めて、今まで「日常の一コマ」であったはずの“世相”が、時代という大きな波の中で変化していることに気付くのだ。

バーで軍艦マーチを聞きながら一人で酒を飲む笠智衆の表情は、「世の中変わったなあ・・・」と無言で語っているのではないだろうか。

そう考えると、還暦前にして小津は、人生を達観した、仙人のような視点に立っていたんじゃないかとさえ思う。

(1962年 松竹)

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