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風の歌を聴け

監督:大森一樹/CS/★3(53点)本家

「私は如何にして心配するのを止めて村上春樹を愛するようになったか」。この映画で逆説的に証明できる。
映画が若い。
ゴダールのポスターなんか貼っちゃって、青臭い想いを青臭い表現でぶつけている。
それはそれで、嫌いじゃない。

映画の感想ここまで。以下、余談。

十数年ぶりの再鑑賞。当時は原作どころか村上春樹作品の一つも読んでいなかった。
当時は「こういう話なんだ」と思ったし、原作を読んでも「たしか映画もこんな話だった」と思った。しかし、平野芳信や斎藤美奈子、石原千秋らによる“謎解き”を知ってしまった今、この映画のストーリーは原作とは全然違うストーリーである。
この映画の製作当時、原作の発表から2年後の時点では仕方がない。私も同じ様に読んでいたし。

私がどうして村上春樹が好きなのか。この映画で大森一樹が犯した3つの誤りで逆説的に証明できる。
誤りその1「双子の姉妹を登場させたこと」、
その2「鼠の彼女を登場させたこと」、
その3「鼠の癖を描写しなかったこと」。
鼠の自主映画なんて改変は、たいした問題じゃない。

双子の姉妹は村上春樹が好んで使うモチーフで(その意図は不明だが)、この小説でも台詞の中で紹介される。しかし実際には登場しない。「小指のない女の子」というモチーフを出してしまった以上、映画的には何らかの意味を持たせなければならない。そこで大森一樹は「双子」という設定に飛びついたと推測される。言わば、まんまとハルキの罠にはまったのだ。ここで「小指のない女の子」をすり替えてはいけない。

鼠の彼女も小説上登場しない。あくまで鼠の話の中で出てくるだけだ。私はこの小説を最初に読んだ時、鼠の彼女は本当は存在しないんじゃないかと思っていた。父親の話も、家が金持ちなことも実際には登場せず、小説を書こうとしている鼠の想像上の産物ではないかと読み解いたのだ。しかし大森一樹は、何故か実際に登場させた。させてしまった、と言う方が正解かもしれない。

小説では、鼠には「十本の指を確認する」という癖がある。
まるで冗談の様に書かれているのでつい読み飛ばしてしまい、映画でもバッサリ切られているが、実は重要なポイントなのだ。
つまり、鼠が「十本の指を確認する」ということは、「十本の指が揃っていない人物を知っている」暗示と考えられる。鼠と小指のない女の子が知り合いだと仮定したらどうだろう?

巻上公一演じる「鼠」と真行寺君枝演じる「小指のない女の子」は、映画でも小説でも一度も同じ場面には登場しない。
しかし、この二人が知り合いだと仮定すると、全てが繋がるのだ。

なぜ突然、鼠は女のことを相談しようしたのか?
なぜちょうど同じ頃に小指のない女の子は堕胎手術を受けたのか?
なぜ鼠は父親を殺したなどと言ったのか?そして金持ちを嫌うのか?
そもそも小指のない女の子が都合よくJayのバーで倒れていたのはなぜか?
そしてどうしてこの街を去ったのか?

この二人は恋人だったのだ。
おそらく、鼠の父親に強く反対され、妊娠した彼女と別れるよう、金で無理矢理解決させられたのだろう。

原作の表面的なストーリーを映像化すると、この映画の通り「彷徨える若者達」の物語になってしまう。しかし本当は「三角関係」の物語なのだ。
ハルキの妙はここにある。
実際に書かれているストーリーとその物語は違うのだ(実際、眼に見えることが真実ではないというエピソードも多くある)。
その誤った読み解き方の代表例がこの映画なのである(もっとも、正解なんて本当はないのだが)。

(1981年 ATG)

comments

え?え?まさか先生ご本人でしょうか?どうしてここがバレたんでしょう?

最近はTwitterなどで偽者が横行していますが、ご本人と信じて書きますけど(違っていたらすいません)、
何を隠そう、私は「優れた作家は本当に書きたいことを隠して書く」という先生の持論(?)を映画の鑑賞にも応用しているのです。
そして、何を隠そう、村上春樹により深くハマるきっかけは先生著作の「謎解き」本でした。
そしてそして、何を隠そう、私は先生が母校で部長をされていた時の部下なのです。ワハハハ。

  • ペペロンチーノ
  • 2011/01/11 1:01 PM

拙著を読んでいただいたようで、ありがとうございます。ブログの「おそらく、鼠の父親に強く反対され、妊娠した彼女と別れるよう、金で無理矢理解決させられたのだろう。」という部分は、さらに解釈を更新しましたね。なるほどと、感心しました。

  • 千秋楽
  • 2011/01/10 2:46 AM
   

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