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ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜




監督:根岸吉太郎/ユナイテッドシネマとしまえん/★4(72点)本家公式サイト

取り立てて良い所は無いのに、なんだかとっても良いちゃんとした映画。おかしいな?根岸吉太郎なのに。
私がいかに太宰好きだったかについては、これを書いている時点で未登録の『パンドラの匣』で連綿と書いているので割愛するが、本作はよくある太宰周辺話の一つ。
「ヴィヨンの妻」自体は短編なので、あれやこれやいろんな太宰作品を交えて田中陽造は脚本を書いたらしい。
てゆーか、田中陽造だ。久しぶりだな。

しかしですな、松たか子は全然いい女優だと思わないし、ヒロスエは相変わらずだし、最近いい味を出してる浅野忠信も最近の浅野忠信だし、堤真一にしてもブッキーにしてもいつもの彼らのまま。
特別褒めるべき点がないんだよね。
前に出すぎない室井滋と伊武雅刀は悪くなかったけど、図抜けて素晴らしいのは光石研と新井浩文の微妙な起用法くらい(笑)。
だいたいがさあ、『絆』で堂々の1点付けて以来完全無視の根岸吉太郎なわけですよ。

ところが終わってみれば、これがなんだか良い映画。
どこがどう良いとは言えないのだが、とにかくちゃんとした映画。
「何の芸も工夫も無い」でお馴染み根岸吉太郎とは思えない。
本当に根岸吉太郎なの?俺の知らないうちに腕を上げたの?今さら?

おそらくこれは「献身的な妻の物語」と受け止められるでしょうが、私は「一人の女性が自己に目覚める物語」と読み解きます。

時は戦後、劇中でも酒飲み話で「男女平等」という単語が出てきます。新しい時代の中で新しい自分を発見するのです。
小料理屋で人気になった彼女は「私、お金になるんですね。」と言います。そして「もっと早くこうすれば良かった。私、幸せです。」と言うのです。
自らの意志でルージュを引き、進駐軍相手の商売女に同類の共感を持ち、「グッドバイ」と相手に対しても今までの自分に対しても別れを告げるのです。
行動の動機が「夫を救う為」だから献身的な女性に見えますが、人質(本当に質草)という受動的な行動から、次第に能動的に、自らの意志で行動するようになっていくのです。
そして、「生きていさえすればいい」と前向きな言葉を発するのです。

しかしなんだね、一度きりの口紅で女性の決意を表現するとは、田中陽造健在だな。

2009年10月10日公開(2009年 フジテレビ他=東宝)

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