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エル・スール




監督:ビクトル・エリセ/渋谷ユーロスペース/★5(99点)再鑑賞本家

良質な短編小説あるいはエッセーのような映画。どうしょもない切なさに、その難解さを忘れてしまう。
2009年1月、ニュープリント上映を鑑賞。たぶん8年ぶり4度目の鑑賞で、やっとレビューを書いてみる。
どうでもいい話ですが、今回のニュープリント上映、すっかり有名になった『ミツバチのささやき』は大学生くらいの若い観客が多く、『エル・スール』は往年の映画ファン(?)が多かった。

この映画、娘視点で「父親が理解できなくなる」物語と、父親が「娘を理解できなくなる」物語が交錯します。
その背景というか原因は複雑かつ難解で、観客には明示されず、「それはきっと南にあるのだ!」「私は南を目指す!」ということになるのですが、よくよく考えてみると、謎は謎のままなんですね。
(ナレーションでもあるように母親は印象に残る物語への絡み方はなく、彼氏に至っては姿さえ登場しない。徹底的に“父と娘”の物語だけを抽出している)。

そうした「謎は謎のまま」的な、結末よりも過程の描写に注力しているように思える部分が、私が短編小説的と思う要因の一つなんですが、よくよく見ると、
「表=娘の現在、そして未来への物語」
「裏=父の過去の物語」
という表裏一体の構成なんですね。たぶん。まあ、どっちが表か裏か怪しいですが。

この裏物語のキーワードに「内戦後の政治体制」というのが出てきます。
父親の乳母が分かりやすく解説してくれる父と祖父の政治思想の対立は、おそらく当時のスペインのイデオロギー構造を象徴しているものと思われます。
(教会を嫌っていることから宗教的対立も含むのでしょう。)

私の敬愛する文学者・石原千秋は「優れた作家は本当に書きたいことを隠して書く」と言っているのですが、おそらくビクトル・エリセはそういった「隠して書く」人なのでしょう。
本作の約10年前『ミツバチのささやき』でもスペイン内戦を背景としていましたし、10年後に発表した『マルメロの陽光』はどうだったか忘れましたが、さらにその10年後のオムニバス映画『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』中の一遍でも、戦争の影が忍び寄る時代を背景としています。
つーか、本当に10年に1本ペースだな、この人。

北の地で死を選ぶ父と、生きるため(静養のため)南を目指す娘。
ある意味「娘による父殺し」とも読み取れるこの物語は、体制派(あるいは戦後世代)に抑圧され消えゆく思想(あるいは文化)を象徴しているのかもしれません。
ビクトル・エリセが隠して描いた真意は未だ私には掴みきれませんが、娘(戦後世代)の抑圧は「無自覚」に行われているのではないか、エリセは意図的に「無自覚の圧殺」を描いたのではないか、などとうがった見方をしてしまうのです。

ニュープリント版2009年1月24日公開(1982年 スペイン) 95分

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